富士山 山開き
山行記録    Toppage

山域・山名  富士山山開き 
日   時  2006年7月1日
天   候  雨
今年は7月1日が富士山の山開き。
トレーニングを兼ねて登ろうと思ったらいつも登っている富士宮口が登山道の状況で八合目から上が今のところ通行出来ないらしい。
そこで一度も行った事は無いが須走口から登る計画を立てた。

先週登った巻機山は素晴らしい天気に恵まれて最高だったが、今週末は週間天気予報があまりよく無い。

前日の金曜日、仕事が終わって家に帰りどうしたものかと思案していると妻が「そう言えば昼間テレビで明日は富士山の山開きですって言ってたわね」「結構登って行く登山者が映っていたわよ」と言う。
この一言に私の眉毛が一瞬ピクッと動いたのは言うまでも無い。

よーしこれで決まった!今から行くぞと晩飯を食べて須走口五合目に向かう。
一般道からあざみラインへ入ると道路脇に牝鹿を発見。五合目の駐車場は予想外に空いている。
こんな天気に登る登山者がそんなに多い訳がないのでまあ無理も無い。

駐車場に着いて天気が悪ければ夜が明けるのを待って登るつもりでいたのだが、五合目の山小屋でトイレを借りた時に話をしたら山頂は霧がかかっているのでご来光は無理かもしれないが八合目なら大丈夫じゃないかと言う。山頂を見上げると煌々と山小屋の光が瞬いている。少し風があるが問題では無い。下界を見れば写真のように街の灯りがとても綺麗に見えている。
須走口5合目から見た御殿場市街の夜景

よし八合目でご来光を拝む事にして八合目まで4時間、出発を丁度山開きと同じ時間7月1日午前0時と決めた。

出発前に心配してメールをくれた山の友人は早くも中止を決めたようだ。今となってはこの判断が正解である。

仮眠前に現在の状況をメールして車のシートを倒して横になった。
出発まで約2時間、たまにやってくる車のライトとエンジン音で目が覚めてしまい結局一睡も出来ないまま出発する事になる。

ザックを背負って付近を見ると残念ながら八合目付近に霧がかかってしまっている。天気はゆっくりではあるが確実に悪くなっているようだ。しかし風は弱く下界は山中湖周辺の夜景が綺麗に見えている。

やって来る車はあるが出発する登山者の姿は皆無である。何だか心細くなって来たがベッドライトをつけて五合目の山小屋を通り抜けて登山道へと入って行く。
五合目が標高2000mなので山頂まで標高差1776mある計算だ。

富士宮口は登り始めが標高2500mなのでいきなり森林限界を越えているが須走口は最初樹林帯の中を通過していく。

真っ暗な樹林の中は何だか不気味で先ほど見た鹿と先週行った八海山で仕留めたという巨大なクマの姿がどうも頭から離れない。突然横から飛び出したらどうしよかとそんな事ばかり考えながら歩いていく。

樹林の中なので蒸し暑くすぐに汗ばんで来る。ヘッドライトの灯りめがけて蛾や虫が止めどなく飛び込んで来てうっとうしくて仕方がない。
途中で砂礫の道に出て又樹林の中を通って新六合目の小屋に着いた。自動販売機があって500mlの水が400円で売られていた。

持参したジュースを飲んで再び歩き始めると、ポツポツと雨が降り出した。弱かったりちょっと強く降ったりと何とも中途半端な降り方である。しかし下界の景色は相変わらず街の夜景が綺麗に見えていて心配は無いようだ。

少し濡れて来たので思い切ってカッパを着る事にした。標高がまだそれほど高く無く蒸れて長袖が汗でビッショリになってしまう。(これが後で命取りとなるのである)

相変わらずただ一人心細く歩いていると前方に灯りを発見、やはりカッパに着替えているようだ。軽く会釈をして先を急ぐがなんだか急に心強くなってきた。(いつになく弱気な私)

この人と六合目で再び一緒になり話をすると毎年山開きの日に登っていたが今年は61歳になったのでこれを最後にすると言っていた。今後は雪山に専念するそうである。

この先で一人下山して来る人がいた。早くも撤退だと言って下って行く。
雨脚がだんだんと激しくなって来たなと思ったら一瞬のうちに下界が霧で覆われてしまい何も見えなくなってしまった。
なんだか急速に天候が悪化しているようだ。
雨が横からも吹き付け、霧で登山道もよく分からずトラロープを目印に登って行くと突然の突風によろけそうになってしまう。
カッパの帽子に当たる風がビュービューと音を立て帽子が後ろに脱がされてしまう。
山中湖方面の夜景

何とか七合目まで来るとトイレの中で休憩している若者がいた。私が着いたら出てきて杖を二本突いた人を見かけなかったかと訪ねられ、その人なら先ほど下って言ったと教えると非常に残念がっていた。この先霧でロープも無く登山道が分からないので引き返して来たという。今更小屋に泊まるのも癪なのでトイレで夜を明かし下山する事にしたと言う。

登山道が分からなければ引き返した方がいいと助言をもらって先へ進むとなるほどロープも看板も見あたらずどこが登山道なのか分からない。
ヘッドライトでグルッと辺りを見渡し五感をフル活用して登山道を探し出した。なんだあるじゃん大げさなと思ったがまさかすぐ後で同じ目に遭うとはこのときは思っても見なかったのである。
この辺りから下山用の砂走りが交差している関係でこの砂走りを横切る時に霧で登山道が分からなくなってしまうようだ。

標高も3200mを越えて何だか息苦しくなってちょっと頭が重い。きっと寝不足が堪えているに違いない。

風と雨と霧に中ようやく吉田口との合流地点までやって来た。ここが八合目なのか?しかしその上にとても明るい光が見えたのでそこまで行こうと思ったがこの小屋の先で吹き上げる霧に視界を遮られ登山道が分からない。一旦戻って小屋の後ろを見てみたがどうも違う。小屋は残念ながら営業されておらず真っ暗である。

少し前に歩いて見たがどうも違うようだ。これ以上行くと方向感覚がおかしくなりそうなので一旦引き返して小屋の前に立ちどうしたものかと考えこんでしまった。
取りあえず霧の一瞬の晴れ間を狙ってみたがいつまで経ってもらちがあきそうにない。
毎年登っているという人が来ないかと待ってみたが来る気配がない。

諦めて明るくなるまで待つことに決めて小屋の玄関先にザックをおろしてテルモスのお湯を飲んだ。日が昇るまであとどれくらいかかるだろうか。時計を見ると3時40分だ。まだだいぶ時間がかかりそうな気がしてきた。

雨が吹きかけ風が吹きさらす玄関先に腰を下ろして膝を抱えてジッとしていると汗で濡れた体が急に冷たくなってきて手先までしびれて来た。歩いていればさほど感じない寒さだがジッとしているととてつもなく寒い。
暫くジッとしていたが耐えきれず立ち上がってザックを背負い時計を見ると4時を少し過ぎたところだ。
あとちょっとで夜が明けそうだがこの場所に30分もいたので寒さと気力の低下は避けられそうもない。
下山道に咲いていてギンリュウソウ

ここで戻るのも癪なので最後にもう一度登山道探しにチャレンジする事にした。
後ろを振り返り看板の位置を見失わないように注意して登山道らしき道を探して進むと目の前にトラロープがあらわれた。あった!と喜んで二三歩進んだ所でなんだか気持ちが悪くなって来た。
どうやら完全に高山病の兆候が出ているらしい。
ここまでコースタイムを1時間近く短縮する勢いで登って来たのも原因のようだ。

上を見上げれば完全に霧の中、下を見下げればこれまた完全に霧の中、ここから山頂まではもう2時間はかからないだろう。

雨にあたって風にさらされ、高山病に耐えながら山頂を目指すモチベーションの糸はこの時完全に切れてしまった。
戻ろう、折角苦労して探した登山道だが前に進む気力は完全に失せてしまっている。

戻る途中で夜が明けた。天気は回復する気配は無い。途中で毎年登っている人とすれ違って下っちゃうの?と聞かれ「ご来光もダメみたいですから」と気力無く笑ってその場を去った。
この人とも約1時間近い差がついていたんだなぁ、どうりで待っていても来ない訳だ。
あとは広大な砂走りの斜面に私たった1人、ザッザッと音を響かせて下るのみである。
汗でビッショリ濡れた重いシャツを脱いで車でおにぎりを食べ、お茶を飲んで敗者はこの場を去ったのである。

今思えば五合目に到着した時点では霧もそれほど無く、雨もかなり上に行ってから降り出していたに違いないのでご来光を諦めてすぐに山頂を目指して出発していればよかったかもしれない。・・・反省

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