昨年の１１月、十枚山に行ったときに地元の人に「向こうに見えているのが山伏岳と言い、地元で一番人気のある山だ」と教えてもらっていたので、今年の正月に登る事にする。　

　昨夜の雨も明け方には上がり、天気も回復の方向へと向かっている。現地に着くころには青空が広がり、絶好の登山日和である。

山伏岳は大谷崩・西日影沢・牛首そして井川の方から登る４つのルートがある。
　今回我々は梅ガ島新田、大谷崩入口に車を止めて、林道を歩き、大谷崩を登って山伏岳に至り、西日影沢を下るコースをとる事にした。距離が長く健脚向きのコースである。

　車を止めて出発準備に取りかかるが雲一つない晴天のため、カッパ、アイゼンは置いて行くことにする。（出発時　快晴　風弱く　気温４度　ちょっぴり肌寒い）

　林道を歩き始めると左側は別荘地になっている。舗装されたアスファルト道を２人でてくてく歩いていくと数台の観光客らしき車が通り過ぎていく。大谷崩れでも見に行くのであろうか。
　途中、ところどころ未舗装の所もあるが、大谷崩までは乗用車でも行ける立派な道が付いている。
　この林道を歩くこと１時間、ようやく大谷崩ダム群に到着する。

　下から見上げると、大谷崩はまさに微妙なバランスの上にようやく踏みとどまっているとしか思われない。地震などなんらかの刺激によっていつ一度に下に向かって押し寄せて来てもおかしくないような状態である。

　静岡新聞96.8.10の静岡の災害史にも１７０７年（宝永４）の宝永地震によって、大谷崩は空前の大崩壊がおこり、土石流は大谷川の下流にある仏山の森林になだれこみ、川を堰き止め、１３ヘクタールの池を造出し、我々が車を止めた新田の集落もこの地震によって押し寄せた大谷崩の土石が段丘を形成してその上に人が住んで村として発達したと書いてある。
　今現在も砂防工事は進んではいるものの、阪神大震災クラスの地震がこのあたりで起こったら、山の状況は一変し、大変な被害がでそうである。それくらいすごい所である。

  その砂防ダムを１つ越えると扇の要という看板が立っている。ここからしばらく雑木の中を歩き、本格的な登りとなる。おおいかぶさるような大谷崩のガレた急斜面を落石に気を付けながらひたすら上を目指して登っていく。

　大谷崩のちょうど中腹を過ぎた辺りで、杉本さんが「腹がすいたのでビスケットでも食べか」と、言うのでガレ場に座り込んでビスケットを食べはじめた。
　崩れ落ちた岩だらけの所なので木も草もなく、見通しは大変よい。天気は相変わらずよく、十枚山から竜爪山へかけての山並みがきれいである。
　しばらく休憩していると風に乗って白い物がちらちら飛んでくる。最初は木の葉か何かと思っていたがどうやら雪らしい。
  空を見上げると、さっきまであれ程青空が出ていたのに雲行きがあやしくなっている。風はあいかわらず吹いているがさほどでもない。
　休憩もそこそこにガレた道をなおも登ると雪がだんだんとひどくなってきた。
　十枚山から竜爪山にかけての山並みも見えなくなってしまい、どうやら急激に天候が悪化したようだ。

　大谷崩の稜線にでたところが新窪乗越だ。あいかわらず雪が舞い、風は不気味な音をたてて吹き抜けている。気温はマイナス３度まで下がっており、とても寒い。
　この先の登山道は氷付いていてアイゼンがないと危険だと思われる。いまさらながら車の中にアイゼンを置いて来たことが悔やまれる。
　何しろ初めての山でこの先の状況がよくわからない。装備不足もあるので今日は登頂をあきらめてここで引き返すことにする。
  冬の２０００ｍ級の山をあなどってはいけないとつくづく思いしらされた。

　元来た道を引き返して、大谷崩入口のところで昼食をとる。相変わらず雪がちらついていて寒い。
　林道を引き返して車に戻り、明日の偵察のため、西日影沢登山口のところまで見に行く。
　その後、梅ケ島の八紘嶺の登り口を探しに行き、両方共登り口は分かったので今日の宿泊先であるコンヤ温泉民宿『しむら』へ向かった。

　こじんまりとした民宿でまだ新しく、良い感じである。
　風呂も民宿の割には結構広くて、温泉も梅ケ島と同じくツルツルしていて肌がすべすべして来る。

　風呂から上がってビールをもらって部屋に帰りさっそく一杯やる。いつものことながら山から帰って風呂にはいり、冷たいビールを「グイッと１パイ」　う−ん最高！

　夕食の時、地元の鉄砲打ちの人達がいて、コツ酒をご馳走になり、山伏の話を聞いて明日もう一度、西日影沢より山伏岳をめざして敗者復活戦に望むことにする。

　１月３日、宿を９：００発、西日影沢の駐車場にはかなり多くの車が止まっている。
　正月からこれだけ車があるとは、さすがに地元で一番人気のことだけはある。
　今日も昨日と同様に出発するときから雪がちらついている。

　駐車場から少し林道を歩くと登山口の看板が建っている。ワサビ用のモノレールが登山道の脇を縫うように上に向かって伸びている。西日影沢沿いに進むと、ところどころ岩から流れ落ちる水が凍ってつららになっている。
　ほどなくワサビ田が現れが、川の中に木が横倒しになっていて、その木へ川の水がかかって凍り付いていては、ワサビ田にビニールハウスがかかっているのもうなずける。
　このワサビ田を右に見ながら灌木帯の中へ入って、一登りで大岩へ到着。
　ここから右の登山道を登ると程なく水場が現れる。ここで水を飲んで暫く休憩。つめたくておいしい水だ。

　ここから急な道を登り、着いたところが見晴台。雪は相変わらずちらちら降っていて、風が吹くととても寒い。
　この先ロープが張ってあるところから道が凍っている。すべってとても歩きにくく、ここでアイゼンを付ける。
　高度が増すにつれて登山道の雪の量も、降っている雪の量も増えてくる。今日はちゃんとアイゼンも用意して来たので安心である。
　山頂付近は相当寒さが厳しいと思われるので、稜線に出た所でヤッケを着て、低い熊笹の中を頂上へと向かう。

　山頂は二等三角点が設置されており、そのまわりには十字に測量用の板がおかれている。今年国土地理院でこの辺りの測量を行うらしい。

　降っている雪の量はそれほどでもないが、風が強く横なぐり状態でとても寒い。温度計もマイナス７度を示している。我々以外には山頂にいる人もなく、写真を撮って風のないところへ引き返そうと、ザックから写真機をとりだすが、手がかじかんで思うようにならない。ようやくカメラを出して１枚写すと何か変な音がして動かない。寒さの為に壊れたのかと心配したが、２枚目以降は大丈夫なようだ。
　山頂から見える富士山は雪の為にぼんやりとしかみえなかったが、晴れていれば十枚山から見るよりもはるかにすばらしいだろう。

　　山頂で昼食をとるつもりだったがとても寒くてダメなので下へ降って食べる事にする。
　適当な場所がないので、登山道の脇へそれて簡単にパンを食べて済ませてしまう。
　水場の場所まで降りてきて、清水を涌かしてコーヒーを飲んで少し長めの休憩を取って、無事駐車場まで戻ってくる。

　昨日泊まった民宿の温泉で汗を流して冷えた体を温めて、帰って来る。